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2020.01.01 (Wed)

いらっしゃいませ

こんにちわ。ななおむつきと申します。


BLオリジナル小説を、ちまちまと書き綴っております。

現在「FC2小説」にて発表しております。

入口はこちら↓

ななおむつきのページ

どうぞヨロシク。



このブログでは、小説についての言い訳やらあとがきのようなものを、載せております。
また時々、つぶやいたりひとりごとを言ったりもします。
もしかしたら、こちらで小説を書くことも、あるかもしれません。

また、「FC2小説」のバックアップ用に、あちらの小説をUPすることもあります。






まだまだ勉強中の身でありますので、お見苦しい内容が多々あるかと思いますが、ご用とお急ぎでない物好きなあなた、お読み頂ければ幸いです。
ついでに感想など頂けたら、とても喜びます。

またボーイズラブが苦手な方、趣旨の判らない方は、小説をお読みになることはご遠慮下さい。

作品の内容は、成人女性向けとなっておりますので、男性の方の閲覧も、ご遠慮頂きたく思います(もちろん、平気だとおっしゃる方には、規制は致しません)

未成年の方の閲覧は、固く禁止させていただきます。







コメントについて

以前はコメント可にしていたのですが、いたずら・迷惑コメントが入ることが何度か続いたため、現在、各ページでのコメントは、全面的にご遠慮頂いております。

何かありましたら、拍手コメントもしくはメールフォームで、お願い致します。



00:00  |  いらっしゃいませ

2009.09.16 (Wed)

しばらくぶりのfc2

ちょいと他所様へ、出張致しておりました。

そのまま、そちらに居つくことになるやも知れません。

ですが、こちらはこちらで、やりかけの仕事を終わらせなければならないので

今まで放置した分、これから頑張らねばと思っております。


更新・・・したいなあ。

11:46  |  つぶやき&ひとりごと

2009.08.04 (Tue)

青空が身にしみる

「もう終わりだよ」

冷たい声が、冷え切った部屋に響いた。

悟史のその言葉は、朋彦にとって以前から予測していたものだった。
いつかこういう日が来ると思っていた。ここ数ヶ月、彼の口からこの言葉が出ることを恐れていた。

「・・・そうか。お前がそう言うのなら、そうだな」

ベッドに腰掛けていた朋彦が答えた。平静を装ってはいるが、声が上ずっているのが自分でもわかる。

「・・・じゃあ、これ返す」

かちゃり、と音を立てて置かれたのは、この部屋の合鍵だ。すでにキーホルダーから外されていたそれは、ガラスのテーブルの上で、裸にされた赤ん坊のように寒そうに見えた。

「元気で」
部屋を出て行く悟史の後姿を見つめる朋彦の瞳は、意思とは反して潤んでいる。

男のくせに赤を好む悟史が、いつも着ている見慣れたジャケットがドアの向こうに見えなくなると、今度はドアを見つめて長い間動こうとしなかった。

(なんでこうなったんだ・・・)

頭の中ではその言葉が繰り返し響いている。

立ち上がりバスルームに入った朋彦は、熱いシャワーで冷えた身体を温めようとした。
だがいくら浴びても、身体の芯に残る凍りついた感覚が、どうしても抜けない。

しだいにこみ上げてくるものは、鼻の底にジンと詰まってきて、やがて瞳の奥へ移動した。

「う・・・っ・・・・」

こんなことは初めてだ。男と別れて泣くなんて。
俺はこんなに女々しい奴だったのか。

どんなに否定しても、涙は次から次へと溢れ出してくる。

朋彦はやがてその場に屑折れ、嗚咽を上げて泣き出していた。









「おはよう!・・・・・ゴザイ・・・マス・・・」

改札口から出てきた人ごみの中に、同じ部署の先輩である柏木朋彦の姿を見つけた古山雄太郎は、いつものように挨拶をしようと声をかけたが、朋彦の顔が青ざめ、眼の下に隈が出来ているのを見て、血の気が引いてしまった。
「・・・・・・・」
無言で通り過ぎる朋彦を追いかけて、雄太郎は爽やかの見本のような笑顔を作り、もう一度呼びかけた。
「柏木さん、おはようございます!」
「・・・ああ・・・・・・」
朋彦はうつろな瞳で雄太郎を見た。
「どうしたんですか。徹夜でもしたんですか」
「うるさい」
「顔洗いました? 頭ぐしゃぐしゃですよ」
「・・・・・」
昨夜シャワーからベッドに直行して、そのまま寝てしまった。朝はぎりぎりの時間に起きたので、顔どころか歯も磨いていない。会社に着いたら、残業時用に置いてある洗面セットで、洗おうと思っていた。

「早く行け、フルヤマ。鬱陶しいぞ」
「あー、また間違えてる。コヤマです! 本当にもう、何度言えば覚えてくれるんですか」
「うるさいな。フルヤマでもコヤマでも、どっちでもいいだろう」
「全国の古山さんが聞いたら怒りますよ。じゃ、雄太郎って呼んで下さい」
「バカか」
早く行けと言いながらも自然に早足になる朋彦は、雄太郎を置いてどんどん先に行ってしまった。


雄太郎が企画開発部に配属された時、最初に一緒に仕事をしたのが、朋彦だった。
コンビニのフランチャイズをやっているこの会社で、3年先輩の朋彦の噂は以前から聞いていた。
やり手と評判だったが、噂に違わず仕事が出来る朋彦に、雄太郎は密かに憧れていた。
柏木さんのようになりたい。それが目標だった。

一緒に仕事をするうちに、色々なことがわかってくる。好きな食べ物や洋服の好み、電車は雄太郎と同じ線を使っているとか、1人でアパート暮らしだとか。
それと、どうやら恋人がいるらしい。

雄太郎は急ぎの書類を届けるように言われ、朋彦のアパートに行った事があったが、その時部屋にいたようだった。
朋彦は書類を受け取ると、礼もそこそこにすぐにドアを閉めたのだった。下駄箱の上に、恋人のものと思われる赤いジャケットが置いてあった。
恋人の話はそれまで聞いたことがなかった。いないと勝手に思いこんでいた。
その時雄太郎は言い知れない寂しさを感じ、しばらくの間落ち込んでいた。

仕事のパートナーとのプライベートな付き合いは、程々にしておいた方がいい。それはわかっている。
自分でも変だと思う。朋彦には朋彦の、雄太郎には雄太郎の生活がある。踏み込まれたくない部分に立ち入ってはいけない。それも重々わかっているのである。
だが、その時雄太郎は、朋彦が自分にとってそれだけの相手ではないと、気づいたのだった。

幸いなことに、それ以後は朋彦と一緒に仕事をすることもなく、雄太郎の気持ちも少しづつ落ち着いて、平常心に戻っていた。はずだった。

だが、今朝の朋彦の顔を見た雄太郎は、心の中でくすぶっていた何かが目を覚ますのに気がついた。

なぜあんなふうに歩いていたのだろう。
時々寝起きの姿で出社することはあったが、ああいう感じではなかった。自分のように愛想を振り撒くタイプではないが、いつも快活で、時には冗談も言うような明るい人間のはずである。それが今朝は、まるで不機嫌な気分屋そのものだった。
もともと背が高く均整の取れた体つきに、いわゆる醤油顔で三白眼の朋彦が不機嫌になると、とてつもなく恐ろしい存在になる。
人の顔色に一喜一憂する自分のような人間にとっては、一番怖い相手である。

(こういう一面もあるんだ・・・・・)

雄太郎は、今まで朋彦の表面しか見ていなかったことに気づいた。
どんな人間にも表と裏がある。一緒に仕事をしていて憧れを抱いたのは、仕事上でのほんの一部分の姿しか見ていなかったからかもしれない。

普段はどんな生活をしているんだろう。

興味を持つと、行動せずにはいられない雄太郎である。その日は、朋彦の後をつけてみることにした。
ストーカーと思われても仕方がない。好奇心の方が先に立つのである。



その日、朋彦が帰る時間まで、雄太郎も何かと用事を見つけて、居残っていた。
やがてコートを着てタイムカードを押した朋彦が、エレベーターに向かう。雄太郎は他の人間に気取られないように、さりげなく後を追った。

会社を出た朋彦は、まっすぐ駅に向かう。
朋彦の降りる駅は雄太郎の2つ前だったので、もし見つかっても言い訳は出来る。
電車に乗り吊り革につかまって窓に顔を向けているが、どこを見ているのかわからない目つきだ。

改札口から出た朋彦は、自宅に向かわず繁華街のほうに歩いていく。
雄太郎も以前一緒に仕事をしていた時、何度か連れて行ってもらった街だ。

(飲んで帰るのか? 1人で・・・)

朋彦は1人で飲むタイプではない。どちらかといえば大勢でビアガーデンという人間だ。
誰も連れずに飲みに行くことは殆どない、と雄太郎は思っていた。

やがて、朋彦は1件のスナックに入った。

外観は小ぢんまりしていたが中に入ると意外に広く、ボックス席が多くてファミレスとも思うような雰囲気だ。朋彦のすぐ後に雄太郎が入っても「お連れ様ですか」と聞かれることもなく、酒の注文すら声をかけなければ取りに来ない。

朋彦はカウンターに座り、ウイスキーを注文している。
雄太郎は朋彦の席からは死角になっている隅の方の席を選び、こっそり座った。

ロックのグラスを傾けている朋彦は、雄太郎にとっては初めて見る姿だ。

(かっこいい・・・・・)

素直にそう思った。そして赤面した。
職場の人間はきっと誰も見たことのない朋彦の姿だ。
自分だけが知っている。

雄太郎は、奇妙な優越感に浸っていた。


「1人?」
突然声をかけられて、我に返った。
見ると、眼鏡をかけて背広を着た一見管理職風の男が、テーブルの横に立って自分を見下ろしている。
「あ、はい。いえ」
「どっち」
「えー、えーと、1人です」
「じゃあ、ここに座っていいかい?」
「え、えっと、そこはちょっと」
目の前に座られると、朋彦が見えなくなってしまう。
「待ち合わせ?」
「い、いえ」
「一緒に飲もうよ」
「えっ。あのー」
「1人なんだろ」
「1人だけど、あのー」
「ここを出て、他の店に行こうか」
「えっ」
この人は何を言ってるんだろう。俺と飲みたいってどういう事だろう。
雄太郎はこれがナンパだとは気づかず、目を白黒させて男を見ている。

「さあ、支払いは俺がするから」
男は雄太郎の腕を掴み、立ち上がらせようとする。
「ちょっ・・・ちょっと待ってください」
「まさか、ここがどういう店か知らずに入ったってことは無いよな」
「えっ」
「おいお前」
突然、もう1人の声が割って入った。
「何やってんだ」
雄太郎は慌てて声のする方を見た。朋彦がカウンターから立ち上がって、こちらを見ていた。
「かっ・・・柏木さん!」
「なんでここにいる」
「あの、あのっ」
「邪魔するな。俺が先だぞ」
背広の男は相変わらず、雄太郎を放そうとしない。
「あんたの邪魔をするつもりはねえよ。ただ、そのガキが訳もわからずにいるみてえだからさ」
「柏木さん!」
「お前、そのおっさんと今夜一晩付き合うつもりはあるのか」
「え、ええっ?」
雄太郎は背筋が寒くなった。
「そっ・・・そんなこと、とんでもないですっ!」
「貴様! 余計なことは言うなっ!」
背広男は逆上して叫んでいる。
「残念だなあんた。こいつはノンケなんだよ。諦めたほうがいい」
「ぐっ・・・」
背広男は雄太郎の手を放すと、吐き捨てるように言った。
「次からは飲む場所を選ぶんだな!」
男は、近くにあった椅子を思い切り蹴飛ばして、店を出て行った。
「柏木さん・・・・・」
朋彦は、しらけた目で雄太郎を見下ろした。





「柏木さん! 待ってください!」
店を出て早足に歩く朋彦を追って、雄太郎は小走りになる。
「何であんな所にいたんだ。お前、わかってんのか」
朋彦は、雄太郎が自分を追ってあの店に入ったとは、露ほども思っていない。
「あんな所って・・・スナックじゃないんですか」
「・・・・・」
「俺、何かしたんですか」
「あそこはな・・・」
朋彦は意を決したように低い声で言った。
「あそこは、男が男を探す店だ」
「男が男を・・・?」
まだわからないか、と言うように、朋彦は雄太郎を鋭く見た。
「男が男と寝たくなった時に、相手を探しに行く店だ」
「えっ」
雄太郎は思わず口を押さえた。
「じゃ、じゃあ、俺ナンパされてたわけ・・・」
「そういうわけだ」
しばらく言葉が出なかった。雄太郎はあやうく背広のおっさんに犯される所だったのだ。
「柏木さんが助けてくれなかったら、俺、危なかったんですね」
「やっとわかったか」
朋彦はため息をついた。
「これからは、ちゃんと確かめてから入ることだな」
そう言うと朋彦は、また早足で歩き出した。まっすぐアパートに向かっている。

「柏木さん! 待ってください」
無言で歩く朋彦を追って、雄太郎はとうとうアパートの前まで来てしまった。
「帰れ。なんでここにいるのか知らないが、俺は今1人になりたいんだ」
「あのっ、あの、柏木さん、柏木さんは・・・あの、あの店に、なんでいたんですか」
朋彦のカギを開ける手が止まった。
「そんなこと・・・お前に関係ない!」
「柏木さんも、おっ・・・男を・・・」
「バカっ! そんな大きな声で」
朋彦は雄太郎の口を手で押さえ、部屋の中に引っ張り入れた。
「貴様、誰かに喋ったら承知しないぞ。俺はただ飲みに行っただけだ。男を買うなんてこれっぽっちも・・・・・」
雄太郎にまっすぐ見つめられ、朋彦の言葉が止まった。別れたばかりの恋人に、面影が似ていた。

「柏木さん?」
「・・・・・」
急に黙ってしまった朋彦に、雄太郎は不安そうな声を向けた。
「すみませんでした。俺帰ります」
ぺこりと頭を下げ、帰ろうとする雄太郎を、今度は朋彦が引き止めた。
「一杯やるか」
「え?」
「お前のせいでろくに飲めなかったからな。つきあえ」
「は、はいっ!」
雄太郎は嬉しくなって、大声で返事をした。




朋彦は冷蔵庫からビールとワインを出し、キッチンのテーブルの上にあった日本酒の一升瓶とつまみをいくつか取って、リビングのテーブルに置いた。
1DKの10畳ほどの部屋の中には、ベッドにソファ、他にはテレビやオーディオがセットされたラックがあるだけで、特にこれといった家具はない。クローゼットは作り付けになっていて、脱ぎ散らかした衣類があちこちに点在していた。

「ひとり・・・暮らしなんですよね?」
雄太郎は部屋の中を見渡しながら言った。
「あたりまえだ。こんな狭い部屋にこれ以上人間が住めるか」
「でもっ。でも彼女が・・・来てましたよね、ここに・・・」
「か・・・のじょ?」
「はい。あの」
「そんなもん、いねえよ」
「だって前に」
「・・・別れたんだ。だからいない」
「・・・す、すいません。余計なこと」
無言で飲み始めた朋彦を、雄太郎は缶ビールを握り締めながら見守っている。

恋人と別れたとは意外だった。朋彦を振るような女がいるのか。訳を聞きたいものだ。
こんな素晴らしい人を袖にするなんて、余程人を見る目が無いに違いない。

朋彦は静かに飲むのが好きなようだった。これも今までの朋彦を知る限りでは、思いもしなかったことだ。だが雄太郎は沈黙に耐えられない。
何か話さなければ。必死に話題を探した。

「お酒、たくさんあるんですね。ワインに日本酒まで」
「ああ・・・」
「どれが一番好きですか?」
「・・・日本酒かな」
「へえ。ビール党なのかと思ってました」
「とりあえず、ビールは飲む。酔えねえけどな」
「ふーん。まあ、注いで回りやすいですしね」
「あれ、でえっきれえ」
「えっ」
「大嫌いだ。酌なんて」
「はは・・・」
「形だけだろ。飲ませておけばとりあえず、ってな」
「はあ」
「俺の酌が受けられねえのか、って怒鳴られたことがある」
「えっ。そんなことあったんですか」
「まだ入社したての頃だ。俺は自分のペースで飲みたかったんだ。なのに」
それきり、朋彦は黙ってしまった。
「どうしたんですか?」
「いや」
雄太郎は何か話そうと思うが、話すことが見つからない。

「お前・・・どうしてあの店にいたんだ」
沈黙を破った朋彦の言葉は、雄太郎の予期せぬ質問だった。
「えっ。あのー」
「言い争うような声がすると思って見たら、お前がいたから驚いたぜ。あのオヤジはあの店の常連だ。いつもとっかえひっかえナンパしてる。お前だって、一晩つきあえばすぐポイだ」
「はあ・・・」
「大体、ここはお前の駅じゃないだろう。それともいつも気まぐれに下車して、適当な店に入って飲むようなことをするのか」
「えーっと・・・」
「・・・ま、俺には関係ないがな」
「・・・・・」
雄太郎はあせった。朋彦に、ゆきずりの店で適当に飲むような人間だと思われたくない。
「実は・・・柏木さんをつけて来ました」
「はあ?」
「すいません! ストーカーです」
「何だそれ」
朋彦は突然笑い出した。
「情けないストーカーだな。で、俺を襲おうとでも思ったのか」
「と、とんでもない! ただ俺、気になって」
「何が」
「今朝、柏木さんの様子がおかしかったから・・・」
「・・・・・」
「なんか、いつもと違うっていうか」
「・・・そうか」
朋彦は皮肉そうな笑みを浮かべた。
「ああ、俺は昨夜カノジョと別れて、朝寝坊して、ひどい顔をしてたんだ」
「えっ」
「失恋ほやほやだ」
自棄になったように言う。
「どうだ。これで満足か」
「柏木さん」
「それで、あの店で憂さを晴らそうと、誰かが声をかけてくるのを待ってたのさ」
ここまでまくし立てると、朋彦は一升瓶の酒をコップに並々と注ぎ、一気に飲んだ。
「柏木さん!」
日本酒の一気飲みなんて初めて見た。朋彦はコップを置くと、テーブルに突っ伏した。
「柏木さん、そんな飲み方したら」
「うるせぇ・・・」
酔いが回ってきているようだった。話している間も、あれこれひっきりなしに飲んでいた。日本酒とのちゃんぽんは酔いやすいのだ。

「帰れ。もう1人にしてくれ」
「帰りません」
雄太郎はきっぱり言った。
「俺、今夜ずっとここにいます」
朋彦は顔を上げ、雄太郎をうつろな目で見ている。
「お前・・・変わってるな」
「えっ」
「男が男をつけて何が楽しいんだ。様子が違ったというだけで」
「え、っと・・・」
「俺がなんであの店にいたのか、本当のことが知りたいか」
「・・・・はい」
「あの店は・・・悟史と初めて会った場所で・・・・・」
サトシ。別れた恋人の名前か。
雄太郎は朋彦の口から男の名前が出てくるのを、自然な気持ちで聞いていた。
あの店がそういう店だと知った時から、もしかしたらと、思っていた。
「もう・・・行くつもりなんかなかったのに」
「・・・・・」
「お前、なんでここにいる」
話が支離滅裂だ。相当酔いが回っているようだ。
酔うとこういう風になるのか。これも雄太郎が今日知った朋彦の姿だった。
「柏木さん酔ってますから。心配なので、ここにいます」
「はあ?」
朋彦は素っ頓狂な声を上げた。
「俺は酔ってなんかいない。やけ酒で酔ってたまるか」
やけ酒だと自分で白状してる。雄太郎は可笑しくなった。
「それとも、お前が慰めてくれるのか」
「えっ」
「俺は男と寝る男だよ。どうだ、お前もひとつ。何事も経験だぞ」
まずい。そうとう回ってるぞ。
「こっちへ来い」
想像以上の力で引っ張られて、雄太郎は朋彦とベッドに倒れ込んだ。
「かっ柏木さん!」
朋彦は無言で雄太郎の服を脱がそうとしている。
「柏木さん、止めて下さい」
「うるせぇ・・・」
朋彦の手は、雄太郎のワイシャツのボタンを3つ外したところで止まった。
「・・・・・」
そのまま硬直したように動かない。
「柏木さん、大丈夫ですか」
「・・・・・」
「柏木さん!」
「ん・・・・・」
雄太郎の上に覆い被さって脱力している朋彦は、息も荒く苦しそうだ。
「う・・・っ」
突然、吐き気が襲ってきた。
「柏木さん!」
雄太郎は全身の力で朋彦を抱え、トイレへ走った。


「う・・・うっ・・・・・」
朋彦が吐いている間じゅう、雄太郎は背中をさすったり、コップに水を持って来てうがいをさせたり、かいがいしく介抱していた。子供の頃、母親がよく酔って帰っていたので、慣れているのだ。

「柏木さん」
「・・・・・」
朋彦はもうろうとしている。便器に伏せったまま眠りそうだ。
「柏木さん、こんな所で寝ちゃ風邪引きますよ」
雄太郎は朋彦を無理やり起き上がらせて、ベッドまで引っ張って行った。

ベッドに仰向けに倒れ込んだ朋彦は、顔色も青白く身動きひとつしない。
「柏木さん。大丈夫ですか」
雄太郎は朋彦に毛布をかけて、濡れタオルを頭にのせた。
「・・・帰れ・・・・・」
か細い声で朋彦の声が聞こえる。
頭はすっかり冷静になっている。自分が何をしたのか、はっきり覚えている。
雄太郎の顔を見ることが出来ない。

「柏木さんがもう大丈夫だと言うなら、帰ります」
「俺は・・・大丈夫だ」
「本当ですか」
「ああ・・・」
あれだけ吐けば、すっきりしただろう。雄太郎もそう思う。
時計を見ると、12時をまわっていた。
「やべっ! 終電・・・・・」
走って駅まで行けば間に合う時間だ。雄太郎はあわててコートを引っ掛け、立ち上がった。
「柏木さん、明日はきちんと出社して下さいね。じゃあ、おやすみなさい」
靴を履くのももどかしく、雄太郎は出て行った。


朋彦は、雄太郎の後姿を見送り、そのままずっとドアを見つめていた。

おかしなものだな。
昨夜は手の届かない場所へ向かうように見えたドアが、今日はもういつものドアに戻っている。

吹っ切るまで相当かかると思っていた。それ程今回の失恋は自分にとって痛手だったと、思っていた。
だが今はもう、明日出社したらどんな顔をして雄太郎に会えばいいんだと、考えている。


あの野郎・・・・・・

変な奴だ。


以前仕事をした時は、ヘラヘラしていて軽そうに見えた。
人の面倒ばかり見ていて、自分が損をするタイプだと思っていた。
調子がいい所もあるし、元気が有り余っているように見えた。
今までの人生で、何も悩んだことも無いような、幸せな奴だと思っていた。

だが、今日はしてやられた。
醜態をさらした自分を、見捨てもせず介抱してくれた。
あんな事をされたのに、態度を変えもせずにいてくれた。
ガキだと思っていたのに、精神的には自分よりずいぶん大人に見えた。

「クソッ」

朋彦は、毛布を頭からかぶって考えた。
しばらく眠れそうも無かった。






「おっはよう! ございまっす!」
次の朝、朋彦を見つけた雄太郎は、いつものように声をかけた。
「柏木さん、お元気ですか?」
思い切り笑顔を作って、朋彦の横に並んで顔を覗き込む。
「・・・おはよう」
今日は、髪を整え、洗面も歯磨きも済ませて、スーツ姿も凛々しいいつもの朋彦だった。
「いい天気ですねぇ」
能天気に話し出す雄太郎に、朋彦は言った。
「早く行け。高校生みてえに並んで歩いてるんじゃねえよ」
「いいじゃないですかぁ〜」
「今日は新店の企画会議だ。担当も決まるぞ」
「あっ、そうでした。また柏木さんと一緒がいいなあ」
「うるせぇ。早く行け」
「なんでそんなに邪険にするんですかぁ? 俺、柏木さん好きなのに」
「バッ、バカ! 何を・・・」
「だから昨夜あとをつけたんですよ、わかりました?」
雄太郎は開き直ったようだった。昨夜のことで根性が据わったらしい。
「俺、男同士ってまだよくわかんないんですけど、ご期待に沿えるよう頑張ります」
「アホ。誰が期待するんだ」
「先行きますよ〜」
最後のほうは聞いていなかったらしい。雄太郎は小走りに走り出した。
「待てっ! コヤマ!」
雄太郎は振り返り、走って戻ってきた。
「やっとコヤマって呼んでくれましたね」
目を輝かせて見つめる雄太郎を、朋彦は正視できない。
「雄太郎でもいいんですけど」
そう言うと、また走り出した。


その後姿を見送った朋彦は、空を仰いで大きく深呼吸をする。

空の青さが、身にしみた。


end.


21:35  |  『小説』
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